根室本線釧路駅 10:08



 
 
 
西日本では夏日だったというのに、道東は肌寒い朝である。カモメの鳴き声がビルの間に響いている。
街なかにある蝦夷桜が満開だ。5月4日に札幌で結婚式を撮影したときには散り始めだったから、釧路は札幌より2週間以上花が遅い。
  
今日は札幌へ移動する。釧路駅のみどりの窓口で、石勝線の追分から苫小牧に近い沼ノ端を回って千歳線で札幌まで、という乗車券を注文する。窓口氏は手元の紙に僕が言うルートをボールペンで描き、得心行ってから端末を操作する。そんな買い方をする客はおそらくいるまい。このルートなら特急券を買わなくとも今日中に札幌まで行けるからである。
  
一両きりのキハ40はエンジン音を上げて釧路を離れる。乗客は僕のほかに4人。そのうち1人は鉄道マニアっぽい旅行者だから、地元の人は3人だけになる。朝の通勤通学を過ぎた時間帯とはいえ、やはり少ない。列車はしばらく太平洋を見ながら走り、やがて十勝平野の真ん中へと進む。
  
帯広駅で3時間のインターバル。
駅南の総合スーパーに行くと、テナントが半分くらい撤退してしまってがらんとしたフードコートがあった。その一角にカレーショップ「インデアン」がある。福岡の「資さんうどん」や静岡の「さわやか」のように、十勝地方で知られたチェーン店であるが、まだ食べたことがなかった。
  
店のおばさんに、インデアンカレーくださいと言うと、「カレーひとつ」と注文を通しながら、「普通でいいですか」と確認された。辛さが選べるらしい。彼女は僕を帯広の人間ではなく旅行者と見て取っている。通ぶらないで普通にした。
  
出てきたカレーライスのどろっとしたルーは、バターを使っているのかコクがあるのにさらりと食べられる。まったくもたれることがない。飛び上がるほどではなく、ふつうにおいしい。家の鍋を持参すると、それにルーだけ入れて売ってくれるそうだ。週一で食べても飽きないだろう。
  
雨が降り出した帯広から新得へ行き、1時間待ち。
駅の待合室には土産物屋のような売店があって、新得町の特産品である蕎麦を使った商品を前面に並べている。
店の奥にはおばさんが所在無げに立っており、ときどき、チョコレートの箱を並べ直したりしている。明らかに暇をもてあましている。彼女に店は6時までですかと問うと、「7時まで」と答える。「お客さん、だあれもいない」と諦めたような笑みを浮かべて手の平を上にして肩をすくめた。
 
新得から新夕張までは特急「おおぞら」に乗る。この区間は普通列車が走っていないため、特例区間として特急券を買わずに乗れるようになっている。新得まで来た普通列車はどれもがらがらだったのに、特急は指定席も自由席も満席である。
  
「おおぞら」は雨の中を快調に走っていたが、途中の信号場で抑止。すれ違うはずの下り特急が来ない。途中でシカとぶつかったらしい。衝撃で機器が壊れて自走できなくなったりしたら山の中に閉じ込められてしまう。少しやきもきしていたら、ようやく対向列車がやってきた。「おおぞら」は25分遅れで新夕張に着く。
 
山間の闇に沈む小さな駅から、煌めく都会札幌まではあと2時間。